今回は当事務所に寄せられた相談事例をご紹介します。
少し複雑な内容ですが、他業種・他地域のM&Aでの融資事例です。
※企業情報保護の観点から企業情報や相談内容に若干の変更を加えています。
相談の概要
東京都で不動産業を営む、女性経営者(日本人)からのご相談です。
知人と共同の会社を作り、その会社で鳥取県にある製造業のM&Aを考えており、買収金額を借りたいとのご相談でした。買収予定の会社は固定客がいて売上・利益が安定している会社でした。買収予定先の社長が高齢だったことから会社の売却を検討され、相談者様と話を進めていました。M&Aにかかる買収金額や、仲介業者に支払う手数料を考慮して、融資の希望金額は4千万円とのことでした。
相談者様は不動産業を通じて様々な金融機関に口座をお持ちで、また多額の融資も受けていました。金額にして個人で3億円、会社名義で7億円、合計10億円ほどの融資を受けています。そのような状況であったため、懇意にしている信用金庫に相談したところ、買収先企業がある鳥取県の金融機関に相談するよう言われました。そこで、鳥取県の金融機関に相談したところ、途中までは順調に相談が進んでいたのですが、融資申し込みの書類を提出しようとしたところで断られてしまいました。
不審に思った相談者様は、指定信用情報機関(CIC)で信用情報を確認したところ、M&Aを共同で進めようとしていた知人の信用スコアが悪いことが分かりました。以前、クレジットカードの支払いが滞ったことがあったようです。当初、知人の方は出資せず、経営面でサポートする形で参画し、新会社の株主になる予定でした。そこで株主名簿を金融機関側に共有したのですが、それを理由に融資を断られたのではないか。
信用スコアが悪い、知人を株主から外す形であれば融資を受けられるのでは?
相談者様はそう考えられ、当事務所にご相談にいらっしゃいました。
相談についての分析・回答
相談内容を踏まえ、よく融資についてご質問いただく点も解説しながら分析・回答します。
①M&A資金(買収側)としての融資・借入は可能か?
M&A資金(買収側)としての融資・借入は可能です。M&Aは設備投資(中長期的に利益を生む投資)に近い考え方になります。
同業種に対するM&Aであれば事業拡大になりますので、金融機関からも好意的に見られます。売り先が増える、仕入れや物流を一括化できる、人員を確保できる、などプラスのイメージが分かりやすいからです。
異業種に対するM&Aであれば「シナジーがあるか」つまり、「M&Aにより、本業にプラスの影響があるか。単純な足し算以上の相乗効果を生み出すことができるか」という視点で評価されます。
例えば、食材関係の卸売りや貿易をされている会社が飲食店を買収することで、自社商品の仕入れ・販売量を増やせる、飲食店を通じて食材のPRに繋がる、といった波及効果が見込まれます。
今回の相談事例は異業種で、M&Aによるプラスの効果が見えにくいケースです。買おうとしている会社はビジネスモデルが確立して投資案件に近い内容です。しかし、相談者様の本業にプラスになるか、というとそうではありません。この点は金融機関も強く懸念されたと思います。
経営サポートで参加する知人の経験・実績、買収先企業の雇用を維持し、今後も売上・利益が安定することもアピールすることが必要になります。
また、弁護士や公認会計士によりデューデリジェンス(企業の経営状況や財務状況などの調査)も必須です。デューデリジェンスには一定の費用と時間がかかるため、M&Aでの融資を検討される際は、この点にも注意しておきましょう。
※当事務所ではデューデリジェンスの提携先もご用意していますので、お困りの際はご相談ください。
②融資NGの理由は?
相談者様は買収先企業がある鳥取県の金融機関に融資の相談をしたところ、融資NGとなり断られてしまいました。理由は「総合的判断により」とのことでした。
融資を断られる際に「総合的判断により」という言葉をよく聞きます。融資を申し込む会社側からすると辛い言葉ですが、金融機関側からするとこの言葉は便利な断り文句です。この言葉を伝えれば融資を断ることができるのですから。
一方で「総合的判断」では断られた理由が判断できません。このような状況を踏まえ、国(金融庁)は金融機関に対して、「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」を定めて融資を断わる理由を伝えるよう推奨しています。推奨しているのですが、金融機関からすると「相談者様が気分を害されてクレームになったらどうしよう」と、伝えたくない気持ちもあります。だからこそ、「深掘りして聞かれなければ伝えない」という対応をされることが多いようです。
以上をふまえて大切なのは「なぜ断られたのか」を確認することが大切です。「総合的判断」と言われたら、「金融庁から融資を断る理由を相談者様に伝えるよう言われていると聞いたのですが」と返してみてください。そこで対応が可能そうであれば、「その点を対策すれば、もう一度、融資の相談に来ても良いですか?」と聞いてみましょう。金融機関の担当者が評価する一つのポイントとして「相談者様のやる気」があります。一回断られても、対策して再度チャレンジする姿勢を見せることはプラス評価になります。
今回の事例に話を戻すと、やはり経営に共同参画する知人の方の信用スコアが低いことが原因でした。このような場合だと、やはり知人を株主から外すことが必要になってきます。
③既に多額の融資を借りているが追加の融資は可能か?
こちらは融資を申し込む方の信用状況および融資枠と関係します。
融資における信用は、少し特殊な考え方をします。
クレジットカードを継続的に利用していると利用限度額が増えるのと同じように、融資は利用すればするほど融資額が増えるという性質があります。最初の融資金額は少額になりやすいですが、2回目の融資は大きい金額を借りられる可能性が高まります。1回目の融資を着実に返済していくことで、「この会社は返済能力がある」と信頼されるようになるからです。
相談者様は既に多額の融資を受けられていますが、これもすぐに借りられたものではなく、借りて返して、を繰り返した努力の成果が伺えるものでした。ご本人もその自信があったからこそ、今回の融資もすんなり行くと考えていたと予想します。この場合、取引のある金融機関に追加の融資が可能かを相談してみると良いでしょう。
ですが、この方の場合は現状の信用状況からすると限界ギリギリの融資を受けられていました。さらに製造業や事業系の経営経験・就労経験がなかったため、その点もマイナスの評価となりました。
結果としては、当事務所の方で日本政策金融公庫にアテンドして状況を説明したところ、融資可能性との評価を頂くことができました。理由としてはその金融機関が女性向け融資、新規事業に積極的で、相談者様に有利な融資制度を持っていたためです。一方で既存事業と関連のない新規事業にかかる融資であること、既に借りられている融資額が大きかったため、1千万円の融資額となりました。
④遠隔地の融資相談は可能か?
今回の相談は、相談者の会社・活動拠点が東京都で、M&Aを検討している企業は鳥取県と地理的に離れている状況でした。この場合、本社である東京の金融機関か、事業実施場所の鳥取県の金融機関に相談すべきか悩むことになります。
結論からお伝えすると、ケースバイケースで、どちらの金融機関に相談するべきかが変わってきます。
少し話が遠回りになりますが、ここで金融機関の種類についてご説明します。
金融機関には規模により、メガバンク、地方銀行(地銀)、信用金庫などに分けられますが、対応方針も大きく異なります。特に管轄している地域が大きく影響します。金融機関の管轄外の場所での事業だと融資ができない、ということになってしまうからです。
そうなると全国規模で展開しているメガバンク(三菱UFJ銀行・三井住友銀行・みずほ銀行など)に相談しよう、と考えがちです。
ですが、メガバンクで事業用の口座・法人口座を持とうとすると断られるケースがほとんどです。一定以上の売上規模がないとメガバンクでの口座開設はできません。個人用の口座を持っていても、法人口座が開けなかった、という話はよく聞きます。(裏を返すとメガバンクの事業用口座を持っていると、取引先からの信用・評価がぐっと上がります。)
そこで現実的な方法として、融資等の取引のある金融機関があれば、そちらに相談してみましょう。事業の実施場所が近ければ、その金融機関で対応してくれることがあります。今回の相談者様の場合、既に借入のある金融機関に相談したところ、鳥取県の金融機関に相談するよう伝えられました。東京都―鳥取県と距離的に遠いこと、実質的な事業はM&A先の鳥取県での実施となる事から、そのように判断されたのでしょう。
懇意にしている金融機関がない場合は、日本政策金融公庫が相談しやすいです。
日本政策金融公庫は全国で支店を持っているため、全国をカバーできます。一方で、支店ごとの取引対応になるため、支店の方針により対応が異なったり、融資額が限られる、という点は留意しておきましょう。
※当事務所では日本政策金融公庫とも繋がりがあるので、いきなり断られることはございません。また融資が断られる(謝絶される)場合もその理由をお伝えさせていただきます。気になる方は問い合わせフォームよりご連絡ください。
実施場所の管轄の金融機関に相談する場合や、融資額を大きくしたい時は、その地域の地方銀行(地銀)・信用金庫を頼ることになります。一般的には地方銀行の方が審査が厳しいですが、融資額は大きくなりやすい傾向があります。信用金庫は審査が緩やかですが融資額は小さくなりやすいです。そのため、希望の融資額をイメージしながら優先順位を決める、あるいは両方ともに打診して話を進めていくとスムーズに進むでしょう。
また、最初は電話連絡をすることが多いと思いますが、どこかのタイミングで金融機関との対面での面談が必要になってきます。遠隔地となると移動も大変になると思いますので、こちらも早め早めに相談していくことが大切です。
相談結果
相談者様は当事務所サポートのもと、日本政策金融公庫の融資を受け、足りない金額については自分自身で出資する形で話を進めています。内情としては、相談者様とつながりのある金融機関がまともに相談対応してくれなかったところも不安だったようです。また、信用スコアの低い共同経営の知人については株主とせず、業務委託・役員報酬で対応する予定です。
「対応が早くて、心配事がなくなった。次にやるべきことが明確になった」と相談者様が言ってくれたことが嬉しかったです。
M&Aは最近、注目を集めていますが、それに関連する融資も心配事が増えているように感じます。今回の事例が皆様のお役に立ったなら幸いです。
当事務所では、公認会計士・弁護士など各分野のエキスパートと連携して、相談者様のお困りごとに対応させて頂いています。ご相談は「お問い合わせフォーム」からご連絡ください。