日本で人材紹介業や人材派遣業を始めたいと考える外国人経営者にとって、法的な許可を得るための手続きは複雑で、かつ専門的な知識が求められます。とりわけ、在留資格の問題や日本語による申請書類の作成など、日本人経営者にはないハードルもあります。
本記事は、最近、問い合わせが増えている人材業界業・人材派遣業についての許認可取得の流れをご案内します。日本で株式会社または合同会社を設立し、人材業許可を取得するために必要な知識と注意点を、実務的な視点からわかりやすく解説します。
【1:はじめに:人材紹介業と労働者派遣業の違い】
「人材紹介業(有料職業紹介)」と「労働者派遣業」は、どちらも企業に人材を提供するサービスですが、その仕組みと雇用形態に大きな違いがあります。
1-1. 雇用関係の違い
- 人材紹介業(有料職業紹介)
- 求職者と企業が直接雇用契約を結びます。
- 人材紹介会社は、あくまで求職者と企業のマッチングをサポートし、採用が決定するまでの「あっせん」を行います。
- 採用後は、求職者はその企業の社員(正社員、契約社員など)となります。
- 労働者派遣業
- 派遣スタッフと派遣会社(労働者派遣業者)が雇用契約を結びます。
- 派遣スタッフは、雇用元である派遣会社から給与が支払われ、社会保険や福利厚生なども派遣会社が提供します。
- 派遣スタッフは、派遣会社と契約を結んだ企業(派遣先企業)で業務を行います。派遣先企業は派遣スタッフに業務の指示を出しますが、直接の雇用関係はありません。
1-2. 料金体系の違い
- 人材紹介業(有料職業紹介)
- 成功報酬型が一般的です。
- 企業が紹介された人材を採用し、雇用契約が成立した場合にのみ、人材紹介会社に手数料を支払います。
- 手数料は、採用した人材の想定年収の一定割合(例:30%~35%)で設定されることが多いです。
- 労働者派遣業
- 派遣期間に応じて料金が発生します。
- 派遣先企業は、派遣スタッフが勤務した時間に応じて、派遣会社に「派遣料金」を支払います。
- この派遣料金には、派遣スタッフの給与、社会保険料、福利厚生費、派遣会社の運営費などが含まれています。
1-3. 選考の可否と期間制限
- 人材紹介業(有料職業紹介)
- 企業は、紹介された人材に対して書類選考や面接などの採用選考を自由に行うことができます。
- 雇用関係が直接成立するため、期間の制限はありません。(正社員の場合は定年まで、契約社員の場合は契約期間による)
- 労働者派遣業
- 労働者派遣法により、派遣先企業が派遣スタッフを特定する目的で選考を行うことは原則として禁止されています。(面接などを行うことはできません。ただし、スキルシートなどで求める要件を伝えることは可能です。)
- 派遣スタッフの受け入れには、**期間制限があります。**原則として、同じ事業所では3年、同じ個人では同じ組織単位で3年が上限となります。
1-4. サービス提供の目的
- 人材紹介業(有料職業紹介)
- 長期的な雇用を見据えた、即戦力となる人材の採用支援が主な目的です。
- 採用活動における企業の負担(求人作成、応募者対応、日程調整、条件交渉など)を軽減します。
- 労働者派遣業
- 一時的な人手不足の解消、特定の業務における専門性の補完、採用にかかるコストや工数の削減が主な目的です。
- 繁忙期の人員補充や、特定のプロジェクト期間のみの専門人材の確保などに利用されます。
まとめ表
| 項目 | 人材紹介業(有料職業紹介) | 労働者派遣業 |
| 雇用関係 | 求職者と企業が直接雇用契約を結ぶ | 派遣スタッフと派遣会社が雇用契約を結ぶ |
| 給与支払い | 企業が直接求職者(社員)に支払う | 派遣会社が派遣スタッフに支払う |
| 料金体系 | 採用決定時に企業が人材紹介会社に成功報酬を支払う | 派遣期間に応じて企業が派遣会社に派遣料金を支払う |
| 選考の可否 | 企業は書類選考や面接が可能 | 企業は派遣スタッフを選考できない |
| 期間制限 | 直接雇用のため、原則として制限なし | 派遣期間に制限あり(原則3年など) |
| 主な目的 | 長期的な人材採用、採用業務の効率化 | 短期的な人手不足解消、専門業務の補完 |
このように、両者は法律上の位置づけ、契約形態、サービス提供の目的、料金体系など、様々な点で異なります。企業や求職者のニーズに応じて、適切なサービスが選択されます。
【2. 人材業許可取得に必要な基礎知識】
人材紹介業(有料職業紹介)や労働者派遣業を始めるには、厚生労働省(労働局)からの許可を受ける必要があります。この許可を得るには、いくつかの要件を満たしていることが条件となっています。
c1 財務要件
まず、財務面では「基準資産」と呼ばれる条件を満たさなければなりません。
| 許可の種類 | 純資産 | 現預金 |
|---|---|---|
| 職業紹介業 | 500万円以上 | 150万円以上 |
| 労働者派遣業 | 2,000万円以上 | 1,500万円以上 |
新しく会社を設立する場合、これらの資産要件を資本金で補う必要があるため、設立段階から準備を整えることが重要です。
2-2 事務所要件
事務所についても要件があります。
- 原則として20平方メートル以上の専用スペースを確保
- 面談用の応接スペース
- 個人情報を保管するための施錠可能な設備
※職業紹介業については要件が緩和されています
2-3 運営体制要件
物理的なスペースだけでなく、運営体制として以下の責任者を専任で配置しなければなりません。
- 職業紹介責任者 または 派遣元責任者
これらの責任者は、所定の講習を受講済みであり、かつ社会人として3年以上の業務経験があることが条件とされています。
2-4 代表者・役員要件
さらに、企業の代表者および役員に関しても、法令で定められた「欠格事由」に該当しないことが求められます。たとえば、過去に重大な法令違反や不正があった場合には、許可が下りないことがあります。
これらの条件を満たした上で、事業運営に必要な内部規程の整備や、求人・求職者との対応フローなどを文書化しておく必要があります。
【3. 外国人経営者が直面する特有の課題】
日本国内の経営者と異なり、外国人経営者が許可申請を進める際には、いくつか特有の課題に直面します。その中でも特に大きいのが、在留資格の問題です。
3-1 在留資格(ビザ)の問題
会社を日本で経営するためには、「経営・管理」の在留資格が必要になります。このビザを取得するためには、以下のような条件をクリアすることが必要です。
- 会社設立
- 一定額(原則500万円以上)の資本金
- 実体のある事務所の確保
- 綿密な事業計画の作成
特に事業計画の作成には、事業の安定性や継続性を説明する必要があり、審査が厳しくなります。また、経営管理ビザを取得するためには、現在の在留資格などによっても必要書類が変わってくるため、問い合わせフォームからご相談ください。
永住者や日本人配偶者等の在留資格を持つ方であれば問題ありませんが、多くの方にとってはこのビザの取得が最初のハードルとなります。
3-2 銀行口座開設の課題
資本金の払込には日本国内の銀行口座が必要ですが、非居住の外国人が口座を開設するのは容易ではありません。そのため、信頼できる日本人の協力者を立てて発起人や取締役に含め、その人の口座を用いるなどの対応が現実的です。
3-3 言語の壁と専門家の活用
申請書類や規程、業務運営マニュアルなど、すべての書類は日本語で作成しなければなりません。そのため、行政書士や社会保険労務士などの専門家の協力を得ることが不可欠です。こうした専門家は、書類作成や申請手続きはもちろん、関係機関とのやり取りを代行してくれるため、スムーズな許可取得に大きく貢献してくれるでしょう。
【4. 株式会社と合同会社の違いと選択のポイント】
日本で法人を設立する際、株式会社と合同会社のいずれかを選択することが一般的です。
| 項目 | 株式会社 | 合同会社 |
|---|---|---|
| 信用度 | 高い(対外的信用力) | 株式会社に劣る傾向 |
| 設立費用 | 約30万円 | 約15万円 |
| 登記手続き | やや複雑 | 比較的簡易 |
| 機関設計 | 比較的定型的 | 自由度が高い |
| 特徴 | 取引先や金融機関からの信頼を得やすい | 初期費用を抑えたい、柔軟な経営向け |
許可取得のハードルはどちらの法人形態でも変わりませんが、初期費用を抑えたい場合や経営を柔軟に行いたい場合は合同会社、信用力を重視する場合は株式会社がおすすめです。将来的には合同会社から株式会社へ変更することも可能ですので、事業の見通しに応じて判断しましょう。
【5. 許可取得のプロセスとスケジュール】
許可取得までには、通常3か月から6か月程度の期間を要します。
5-1 取得までの流れ
- 会社設立の準備:
- 必要な資本金の払込
- 事務所の契約
- 責任者の選任と講習受講
- 労働局への申請:必要な書類をすべて揃えて提出
- 審査:実地調査や書類審査
- 許可証交付:厚生労働省から許可証が交付される
5-2 必要書類の例
書類作成においては、以下のような多岐にわたる書類を揃える必要があります。
- 事業計画書
- 資産証明書
- 責任者の経歴書
- 事務所レイアウト図
- 就業規則や運営規程
これらの作業は時間と手間を要するため、早めの準備が重要です。特に新設会社の場合、資産要件を満たす証明やオフィス環境の整備がボトルネックになりやすい点に注意が必要です。
【6. 許可取得後の管理と法令遵守】
許可を取得した後も、事業者には継続的な義務があります。
6-1 定期報告義務
毎年度の実績を報告するために、所定の時期までに「事業報告書」を労働局に提出しなければなりません。
- 人材紹介業の場合:4月末日まで
- 派遣業の場合:6月末日まで
6-2 許可の更新
許可には有効期間があり、初回は3年間、以降は5年ごとの更新が必要です。更新申請時には、責任者が変更されていないか、資産要件を引き続き満たしているかといった点が再審査されます。責任者が交代した場合は、速やかに労働局に届出を提出し、新しい責任者が必要な講習を受講済みであることも確認されなければなりません。
6-3 労働局による調査
さらに、労働局による調査が入ることもあります。不適切な業務運営が発覚した場合、是正指導を受けるだけでなく、最悪の場合は業務停止や許可取消といった行政処分につながる可能性もあります。法令遵守は非常に重要です。
【まとめ】
外国人経営者が日本で人材紹介・派遣業を行うためには、許可取得までに多くの準備と手続きが必要です。在留資格や言語対応、銀行手続きなど、国内企業にはない課題もありますが、事前にしっかりと準備を進め、信頼できる専門家の支援を得ることで、スムーズに進めることができます。
当事務所では行政書士有資格者に加えて、提携している社会保険労務士とともにサポート対応していますので、お気軽にご相談ください。
日本での起業を成功に導くためにも、制度を正しく理解し、段階を踏んで確実に許可を取得しましょう。




